ラングリッサー3 イメージストーリー ルナ ~木漏れ陽の森で~ いつも、終わってから後悔してしまう。 売り言葉に、買い言葉----。 本当、自分という人間が嫌になってしまう。 そんなやりきれない心をかかえ、私は一人、まだ暗い明けの空を見上げる。 空にはまるで自分の分身のような、刃物のような薄い月が冷たい光りを放っている。 彼が他の女性たちに優しくするのを見ては、嫉妬を覚える。 そのくせ、いざ自分が優しくされると、彼を軽蔑して冷たい態度に出てしまう。 そんな正直になれない自分が、私は、嫌い----。 どうして素直になれないのだろう? 天才軍師と世にうたわれるわが父、トーランド。そしてその父に子供の頃から剣術や兵法の基礎、策略までを教え込まれた。幼くして病死した兄に代わって、私は男として育てられたのだ。 そんな私は別動隊の副官という立場上、常に彼の側にいられる。 つまり他の女性よりは、彼に頼られる機会が多い。 彼の力になるに、私は喜びを覚える。だがそれと同じくらいに自分を頼りにする彼を嫌ってしまう。 やはり、自分は「あまのじゃく」なのだ。 昇ってきた朝陽に、消えかけた月を見上げながらぼんやりと考える。月は何も返してくれない。 月----ルナ。 月は”狂気”の象徴だと、聞いたことがある。 ならば、その名を頂く私も、”狂気”の申し子なのだろうか? 男として育てられた自分と、本来の女としての自分が互いに自己主張をしている。 これが私、ルナの正体。 「‥‥ルナ‥‥」 聞き慣れた声に、私は反射的に振り返った。そこには全てを包み込む優しさと、人をひきつける力強さ、そして人としての悲しみを同時にたたえた瞳のあの人が、まっすぐに私を見つめていた。 「こんな森の奥まできていたなんて‥‥捜したよ」 高くなった太陽が、やさしい木漏れ陽を落としてくれる。その光りのシャワーの中を彼が近づいてくる。 ----私を捜してくれた?一晩も?ならば、嬉しい。 (何をうぬぼれているの。彼にとって私はただの仲間。) ----男なんて、女の涙に弱いものよ。さあ、彼を手懐けるなら今よ。 (いいえ、彼は優しい。いつもみんなの事を気にかけてくれている。) ----私を見て。もっと見つめて、私だけを。 (いや、見ないで!私はあなたが思っているほど出来た女じゃないの!) 頭の中に、自分の声がする。 心が悲鳴を上げている。 「‥‥すまなかった。今は俺一人より、この国の人々のことを優先するべきだったよ」 「いいえ、私もきつく言い過ぎたと思います。申し訳ありません」 「これからも、正しいと思ったことは迷わず言ってくれ」 「ディハルト様‥‥」 「俺は弱い人間なんだ。自分のしていることが正しいのか、不安になるときがある」 (それは私も同じです----) だが口にする事は出来ない。弱い自分を見せたくない、という自分がその言葉を黙らせる。 「だから、これからも力をかしてくれ」 「‥‥はい」 彼の瞳は私の心を見すかしてしまいそうで、私は慌てて目を反らした。少し心臓が早くなっている。顔も少し熱い。 こんなの、私らしくない。 「そろそろ、戻りましょう」 私はそれを気づかせないように先に立って歩き始めた。だが注意力がなくなっていたため、地面の石に足を取られてしまった。 「きゃっ」 「おっと!」 彼は私の手を取り抱きとめてくれた。彼のたくましい腕が私を包み、私は彼の胸に顔を埋める。 「大丈夫だったかい?」 「‥‥はい」 「よかった‥‥」 「‥‥あ、あの‥‥」 「‥ん?」 息さえ感じられるほどの距離で彼と目をあわせたとき、無意識に言葉がでかかっていた。 「わ、私‥‥」 自分は何を言おうとしているのだろう。 いいえ、続く言葉はわかっている。 ----あなたが好きです。 「大丈夫です、一人で歩けます‥‥」 「いいや。わが軍の軍師にもしものことがあったら大変だ。この手は離さないよ」 意地悪そうにそう言いながら彼は私の手を取ったまま歩き始める。 「そんな、本当に大丈夫です!」 「ダメ、ダメ!向こうに着くまでは離してあげないよ」 彼は笑う。楽しそうに笑う。 その笑い声に、私は彼の手を握る力を少しだけ強くした。 彼の大きな手。私の小さな手。彼の温かさが伝わって、心地よい。 ----いいよね?少しくらい素直になったって。 ----誰も私らしくないって、笑わないよね? ----もし笑われたって、それが彼なら耐えられるよね。 【了】 WRITTENNBY 葉月 陽
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